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Wednesday, March 17, 2021

Netflix、日本で実写作品加速。鍵は「東宝スタジオとの提携」 - AV Watch

Netflixが東宝スタジオと契約。2つのステージを4月1日から複数年に渡って借り受ける

Netflixが、日本での実写コンテンツ制作を加速する。

その体制づくりの一環として同社は、4月1日より、TOHOスタジオ株式会社と提携、東京・砧にある東宝スタジオの第7・第10の2ステージと関連施設を、複数年に渡り借り受け、「幽☆遊☆白書」、「サンクチュアリ -聖域-」などの大型実写作品制作を行なうことを発表した。

それに合わせ、Netflix側を取材することができたので、その内容も合わせてお伝えしたい。ご対応いただいたのは、Netflix・コンテンツ・アクイジション部門 ディレクターの坂本和隆氏と、広報担当の東菜緒氏だ。

なお、本取材はオンラインで行なわれた。

日本コンテンツに追い風。実写作品を「映画」「ドラマ」「リアリティショー」で制作

まず、Netflixの現状を振り返っておこう。

日本では昨年会員数500万人を突破。現時点での数は未公表だが、伸びているのは間違いない。先日価格改定も行なわれたが、値上げによるユーザー数の顕著な影響は「見られなかった」(広報・東氏)という。

Netflixといえばオリジナルコンテンツ制作。今後もそこに注力する点に変化はない。2015年の日本参入以降、50以上のオリジナル作品が世界に配信されてきた。

Netflixは日本参入以来、50以上のオリジナル作品を日本から海外へ配信した

Netflixオリジナル、というと「全裸監督」のような大作や、アニメーション作品が思い浮かぶ人が多いだろう。昨年末から配信が始まった「今際の国のアリス」は、配信開始から4週間で1,800万世帯が視聴するヒットとなった。

「今際の国のアリス」は、配信開始から4週間で1,800万世帯が視聴するヒットに

その流れを受け、アニメーション同様、さらに強化を進めるのが「実写作品」である。

Netflix・コンテンツ・アクイジション部門 ディレクターの坂本和隆氏(写真は2018年7月取材時のもの)

坂本氏は、今後の方針について次のように語った。

坂本氏(以下敬称略):昨年の「今際の国のアリス」では本当に、日本発の作品への追い風を感じました。

これからは実写作品をさらに強化します。

拡充するのは主に3つのカテゴリになります。

一つは「長編映画」の拡充。Netflix全体でも力が入っており、アカデミー賞へのノミネートが16本あったことも話題になりましたが、特に日本では見られる量も増えています。「彼女」(4月15日配信開始)を始め、「ボクたちはみんな大人になれなかった」「浅草キッド」「桜のような僕の恋人」の4作がすでに発表済みですが、それ以外にも拡充していきます。

次にドラマ。Netflixを代表する、我々が「テントポール」と呼ぶ大型作品を作っていきます。特に今年シーズン2が配信になる「全裸監督」や、今年撮影する「今際の国のアリス」シーズン2などが準備中です。どの作品も時間をかけて作っているのですが、モメンタムを崩さないよう、制作速度をあげていきます。

最後が「リアリティ・ショー」です。

サービスローンチ時に「テラスハウス BOYS & GIRLS IN THE CITY」や「あいのり: Asian Journey」を用意したことは間違いなく起爆剤でした。世界中の方々が支持しているジャンルなので、日本でも新しい切り口でお届けしたいと考えています。

アメリカで制作された「ラブ・イズ・ブラインド ~外見なんて関係ない?!~」の日本版をスタートさせます。それを含め、現在5本が製作中です。

「彼女」(4月15日配信開始)

『全裸監督 シーズン2』今年配信

現在、Netflixはアジア地域でのコンテンツ調達国として、特に日本・韓国・インドの3カ国を重視している。韓国では来年までに5億ドル(約520億円)が制作投資に使われる予定になっているが、日本への投資額は未公開。ただし、後述するように制作体制の強化は進むので、相応の額が使われることになるのは間違いなさそうだ。

「VFX大作」のために東宝スタジオやデジタル・フロンティアと提携

実写制作体制強化に関する柱の1つが、東宝スタジオとの関係だ。冒頭で述べたように、東宝スタジオとNetflixは4月1日より、2つのスタジオと関連施設について、複数年での賃借契約をスタートする。

東宝スタジオから借りるのは2つのステージ

東宝スタジオには第3から第12までの10ステージ(ただし11と12はCM専用)があるのだが、今回Netflixが借りるのは、東宝スタジオの第7・第10ステージ。以下の画像でお分かりのように、面積はかなり広めだ。

東宝スタジオの地図。このうち第7・第10ステージをNetflixが借りる
東宝スタジオの第7ステージ。面積は957平方メートル
東宝スタジオの第10ステージ。面積は657.7平方メートル

「こうした賃借は、他の国ではすでに行なわれているのですが、日本では初めてのこと。実写作品制作パイプラインの要となります」と坂本氏は説明する。

実際、ウェストハリウッドにあるNetflixロサンゼルスは、賃借している大規模スタジオの隣に設立されていたりする。日常的に多数のオリジナルコンテンツを作る関係から、スタジオを借りてしまう、という形態を、Netflixは複数の国で行なっている。

2018年3月、筆者がNetflix・ロサンゼルスオフィスを取材した時の写真より引用。ハリウッドでも最古のスタジオのほとんどを借り、その隣にオフィスがある

坂本:あくまで作品が主軸。賃借した上で、スタジオのスケジュールコントロールはNetflix側で行ないます。制作のリードタイムをきっちり織り込んで早めに物事を進めていくには、これだけの規模のものを賃借する必要がありました。制作ボリュームを考えると、このくらいの大型案件を借りなければいけないとの判断です。主に「幽☆遊☆白書」「サンクチュアリ -聖域-」といった大型作品の制作に使っていくことになりますが、現在随時スケジュールを切っている段階。その上でずっと稼働し続けるのが理想です。

「幽☆遊☆白書」原作コミック
大相撲の土俵を舞台に、1人の無軌道な若者が力士へと上り詰めていくオリジナルドラマシリーズ「サンクチュアリ -聖域-」。下段左から小雪、一ノ瀬ワタル、染谷将太、ピエール瀧

制作体制の強化、という点では、他にも2つの発表がある。

1つは、VFX関連を手がけるデジタル・フロンティアとの4年間の業務委託契約。デジタル・フロンティアはゲーム・映画・ドラマなど多数のCG関連作品の制作を手掛けてきた会社で、Netflix関連コンテンツとしては、前出の「今際の国のアリス」が挙げられる。同作品のVFXを担当した。坂本氏は「今後VFXを多用した作品の制作が増えることから、継続的な関係構築は重要と判断した」と話す。

坂本:VFXを担当するポストプロダクション・スタジオと長期業務提携をするのは、日本のNetflixとしては初になります。中長期的にはVFXなどのポストプロダクションが重要な作品が増えるため、プロジェクトを支える大切なパートナーになると期待しています。

「今際の国のアリス」でも一緒にお仕事をさせていただきましたが、特に「バーチャル・プロダクション」などの要素に期待しています。

これはどういうものかと言うと、制作前にバーチャル空間などを使い、CG合成をした際に役者さんがどう動けばいいかなどを検証する作業です。例えば「今際の国のアリス」の場合には、登場人物が黒豹に襲われるシーンがあるのですが、CGの動物と役者がコラボレーションするような映像の検討に活用されました。

我々としては、作品を準備する段階でどれだけリソースを使えるのか、ということも重要視しています。そうやって、十分な準備をしてから撮影に乗り込んでいく。バーチャルプロダクションでは、そのための検証や開発の場ができると期待しています。

『今際の国のアリス』メイキング映像 - Netflix

Netflixが進めるもう一つの「制作改革」

もう1点、まったく違う観点からの提携も発表された。それが「リスペクト・トレーニング」に関するピースマインド社との関係だ。これは簡単に言えば、撮影現場での「ハラスメント対策」にかかわる研修などを行なうというものだ。

Netflix制作体制改善の3つの柱。前述の2つに加え、「リスペクト・トレーニング」という見慣れない項目も

ハラスメントがあると作品に大きな影響が出る昨今、ハラスメント対策研修はどこもやっているが、どうしてもイメージとして後ろ向きな部分がある。

ただ、Netflixの場合にはそうしたことを「セクハラやモラハラへの対策ですが、ハラスメント発生によってエネルギーを作品に注げないようになるのは問題。相手をリスペクトしているか、一歩踏みとどまって考えてもらうもので、一般的なセクハラに対する講義と違う」(東氏)と定義している。

同社が「リスペクト・トレーニング」と名付けたものは、Netflixが制作する全コンテンツの制作段階に義務付けられており、現在は「全てのキャストとクルーが受けるまで、撮影に入らない」(東氏)という。それこそ、ハリウッドの大スターからケータリングを担当するスタッフまで、全員が区別なく受けるそうだ。Netflixの共同CEOで最高コンテンツ責任者でもあるテッド・サランドス氏は、トレーニング前に関係者に流すビデオの中で、次のように語っている。

「カリフォルニアの場合、以前はこうしたトレーニングはエクゼクティブだけが受けてきた。しかし今は違う。全コンテンツにかかわる全員が受ける。これはトラブルから我々を守るためのものではなく、より良い働く環境を作るためのものだ。何か問題があれば、遠慮なくプロデューサーまで伝えて欲しい」

坂本氏も、そうした話を受けて次のように答えている。

坂本:撮影現場の安心・安全をどう整えるのか、という話ですが、我々とトレーニングを受けたのち、「違う作品でも導入したい」という声をいただくことも多くなってきました。先日、白石和彌監督が制作中の映画「孤狼の血 LEVEL2」について、リスペクトトレーニングを取り入れたというニュースが流れました。あれは、「全裸監督」でやったことに白石監督が注目され、我々からピースマインドさんをご紹介した経緯があります。みなさんにこうした試みが広がっているわけです。

以前Netflixを取材した際、テクノロジーを含めた「映像制作の働き方改革」について触れたことがある。

Netflixが目指す「真のグローバルコンテンツ」。ライバルから「学ばない」

東宝スタジオからの賃借やデジタル・フロンティアとの提携はそこにつながるものだが、また別のレイヤーでも、同社は「働き方改革」をしていたようだ。筆者にはそれが、いかにもNetflixらしいことのように感じられる。

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