<さよならプロ野球(8):西武編 森越祐人内野手>
奇跡の男が、3度目のトライアウト挑戦を選ぶことはなかった。西武森越祐人内野手(32)は中日、阪神と渡り歩き、昨オフに西武に入団した。打席では小技をこなし、守備は内野すべて守れるユーティリティー性を武器に1年間、勝負。オフに3度目の戦力外を受け「去年、言われたときよりもすごくスッキリしていた。あのときはまだやれるって思いがあったけど、諦めがつきました」と10年間のプロ生活に幕を閉じた。
トライアウト史上、2度の合格を勝ち取った唯一の男だ。14年オフに中日から阪神へ。19年オフ、阪神から西武へ。いずれもトライアウト受験後に吉報が届いた。ただでさえ復帰が難しい、狭き門。1度ならず2度、奇跡を起こした。「中日の時は、会場の草薙球場に両親を呼んだんです。最後のユニホーム姿を見せようと。もちろん合格したいと思いながら、思い出作りくらいの気持ちで、ガチガチに力むようなことはなかった。それが逆によかったのかも」。阪神では5シーズン、プレーした。
2度目の受験となった昨オフ、大阪・舞洲に夫人と長男、両親を呼んだ。その時、西武の編成から言われた言葉が忘れられない。「阪神の時から一生懸命やる姿をずっと見てきた。たとえ2軍に落ちても手を抜くことがないと思ったから、球団にプッシュしたんだ」。森越には中日でも阪神でも貫いてきた信念があった。「ユニホームを着ている時は絶対に手を抜かないで一生懸命やることが僕のポリシーだった。そう言われて本当にうれしかった。見ている人は見ているというけど、本当にそうだった」。今季1軍出場がなくても、その信念は最後までぶれなかった。
規約上、トライアウトは2回まで。だがいずれも合格した森越はあと2回受験できる。でも現役に未練はない。「もうおなかいっぱい。けど、次も挑戦。野球が好きなんで、野球に携わる仕事ができれば」。ユニホームを脱いでも、野球に対する姿勢は変わらない。【栗田成芳】
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