19世紀の鳥類研究家・画家が残した有名な野鳥画集「アメリカの鳥類」の日本初の普及版。ハイチでフランス人の両親の間に生まれた著者は、フランスで過ごした少年時代から観察眼に優れ、野山を歩き鳥を観察して絵を描くことに熱中する。ナポレオン戦争を機にアメリカに渡り市民権を得て商売で大儲けをするが、投機に失敗して34歳で破産。悩みぬいた末に「北米に生息するあらゆる野鳥を描きつくし、世に問おう」と決意し、20年後に完成したのが本書である。
自然の中で躍動する鳥たちを独自の描法で描いた作品は、博物画の概念を刷新し、鳥類学の最高傑作と称えられている。原作初版は、100×70センチの巨大な紙にそれぞれの野鳥が実物大に描かれており全部で435点からなるが、本書では選りすぐりの150作品をテーマ別に再編成している。
巻頭の「消える種」の章では、「オナモミの枝に集まるカロライナインコ」をはじめ、既に絶滅、またはその危機にひんした27種の鳥たちを紹介する。中には、オオウミガラス(絶滅)やカリフォルニアコンドル(絶滅寸前種)などとともに、人気作家・伊坂幸太郎のデビュー作「オーデュボンの祈り」の作中で重大な役割を果たすリョコウバトの絵もある。
続く「養」の章では、シチメンチョウの母鳥の足元にまとわりつくひなたちや、仲間の助けも借りてヘビから巣の中の卵を守るチャイロツグミモドキや、給餌するルリツグミの家族、そして枝に引っかかったシルクハットを巣にして子育てをするイエミソサザイなど、子育てや営巣の様子を描いた作品を集める。
そして「狩」の章では、捕らえた魚を両脚の鋭い爪で掴み飛翔するミサゴや、今まさにノウサギを捕らえる寸前のアレチノスリ、ハイイロリスを襲うアメリカフクロウなど、命のやりとりが行われるリアルな場面を描いた作品が並ぶ。
著者の精妙な下絵をもとにした銅版画に彩色が施された作品は、どれも躍動感があり、その鮮やかに保たれた色彩は、とても200年近くも前に刷られたものとは思えない。
オスとメスでは、その容姿が大きく異なる野鳥だが、作品の多くでもつがいで登場させ、その違いを描き分ける。さらに、「オリーブの枝にとまる」ズグロアメリカムシクイや、「山岳地帯の急流付近」に生息するメキシコカワガラス、背景に「サウスカロライナの稲田」が描かれたユキコサギなど、野鳥たちが暮らす生息地の特徴や植物なども作品に描き込む。
他にも、今年の1月に日本本土で初めて確認された「ハクトウワシ」や、北海道に少数だが繁殖している「ギンザンマシコ」、そして越冬のために全国に渡ってくる「キレンジャク」など、日本でも見られる鳥も多く収録。
巻末には収録されたすべての鳥の写真とデータが添えられているのだが、著者の絵はその写真と見比べてもまったく遜色がなく、改めてその観察眼のすごさと描写力に驚かされる。愛鳥家や美術愛好家必携本だ。
(新評論 2000円+税)
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May 08, 2020 at 04:00AM
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「オーデュボンの鳥」ジョン・ジェームズ・オーデュボン著 武市一幸訳|GRAPHIC - 日刊ゲンダイ
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