ぼくは怯（おび）えながら、東郷平八郎司令長官の前に進みでた。「鳳凰（ほうおう）機関よ。貴様も知る通り、ロシアとの戦況が一進一退の中、バルチック艦隊は東を目指し大海原を進んでいる。斯（か）くなる上は、我が連合艦隊も使命を果たすまでだ。使命とは……」と司令長官は胸を張り、
「日本海でバルチック艦隊と激突し、我が国を、見事勝利に導くことである！」
「は、は、はいっ……」
「敵艦隊は、東シナ海を北上し、遼東半島の港に着くと考えられていた。だが今年一月、日本陸軍が遼東半島の港を制圧。そのため敵艦隊の到着地点は、半島より北東のウラジオストク港に変わったと推測される。それで、だな……」
東郷平八郎司令長官の目配せで、お付きの高野五十六がばさりと音を立てて地図を広げた。
大きく日本列島が描かれており、海の部分に二本の線が引いてあった。九州と朝鮮半島の間の対馬海峡を抜け、日本海を北上してロシアのウラジオストク港に着く西ルートには赤い線が引かれていた。九州南部から太平洋側に回りこみ、北上し、津軽海峡を抜けてウラジオストク港を目指す東ルートには緑の線があった。
高野が地図を指し、
「敵艦隊が進むルートには二つの可能性がある。赤い線が対馬海峡ルート。緑の線が津軽海峡ルートである」
「な、なる…
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February 08, 2020 at 03:00AM
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（小説 火の鳥 大地編）40 桜庭一樹 「緑。赤、いや緑？」 - 朝日新聞
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