新しき道
もうずいぶん前の話だが、私が中学生のとき、音楽の授業で校歌を習ったことがあった。その歌詞に、「新しき道、先がけ行かむ」というところがあり、音楽の先生がこんなことを言っていた。
「私は、こういう歌詞は嫌いだね。新しい道がいつもよいとはかぎらない。古い道にもよい道がある。道は自分で選択するものであって、新しい道を行けと強制するのはよくないね」
先生自身が、生徒に教えるもの(この場合は校歌)を「嫌いだ」と言ったのが面白くて、何となく今でも覚えている。
現在の地球では、人類のせいで、さまざまな環境が大きく変化している。その変化の1つに、都市の拡大がある。かつての地球に都市はなかったのだから、生物にとって都市で生きることは「新しき道」だろう。それは、どんな道なのだろうか。
都会で生きることにもっとも成功した生物の1つは、鳥類だ。私たちが街を歩いているとき、ネズミなどの哺乳類や、トカゲなどの爬虫類や、カエルなどの両生類に出会う回数に比べて、鳥と出会う回数はずっと多い。なぜ鳥は、こんなにたくさん都市に棲んでいるのだろうか。
鳥が都市にも多く棲んでいるのはなぜだろう photo by gettyimages
鳥が都市に多い理由
その理由はいくつか考えられる。まず一般的には、多様性が高い種は、新しい環境に適応しやすいと考えられる。
仮に2つの集団があって、片方の集団のすべての個体は、20度の温度に適応しているとしよう。これは、多様性が低い集団だ。そして、もう一方の集団は、20度に適応している個体の他に、もっと高い温度や低い温度に適応している個体もいるとする。これは、多様性が高い集団だ。
温度が変化したときに生き残りやすいのは、もちろん多様性が高い集団だ。だから、多様性が高い方がよさそうな気がする。
でも、もし温度が20度のまま変化しなかったら、反対に、多様性の高い集団の方が不利だろう。20度より高い温度や低い温度に適応している個体は、20度に適応している個体より、効率が悪いからだ。つまり、多様性が高いということは、(言葉は悪いが)無駄が多いとも言えるのだ。
多様性のある集団が有利とはかぎらない
ではどうしたら、よいのだろう。実は、うまい方法が1つある。
全体の個体数を増やせば、よいのだ。全体の個体数が多ければ、20度より高い温度や低い温度に適応している個体の割合は少なくても、絶対数で考えればかなりの数になるからだ。この場合は、環境が変化しても変化しなくても、比較的うまくやっていけることが、コンピュータ上の実験からほぼ支持されている。
2つ目の理由は、移動能力が高いことだ。多くの鳥は飛べるので、都市の外側から内側へ簡単に移動できる。都市で暮らせれば、そのまま定住してもよいし、暮らせなければ、また移動すればよい。
このように移動能力が高い種は、都市で暮らせるかどうかを試すチャンスが多くなる。チャンスが多ければ、その結果、成功することも増えるだろう。
3つ目は、鳥は認知能力が高くて新しいものが好きなので、都市に広がったという可能性である。これは、直感的には頷ける。新しいエサを探したり、新しい捕食者から逃げたりするときに、高い認知能力は役に立ちそうだ。
イエスズメは(おそらくわざと)自動ドアのセンサーの前をゆっくり飛んで、自動ドアを繰り返し開閉させることがある。こういう能力は、エサを見つけるチャンスを増やし、生存率を高める可能性がある。
鳥は認知的能力が高く、新しいもの好きだ photo by gettyimages
また、数百種ぐらいの鳥について、体に対する脳の相対的な大きさと、環境の多様性などを比較した研究もある。そして脳が大きい方が、多様な環境に適応できるという結果も出ている。
ただ、こういう研究の多くでは(もちろん統計的には有意な結果が出ているのだけれど)、データを見るとそれほど強い傾向は読み取れない。とはいえ一応、認知能力が高い鳥の方が、都市に広がりやすいと解釈できる結果は出ているようである。
一部の鳥は、都市に棲むという新しい道を選んだ。そういう鳥は、認知能力が高い傾向がある。なんとなく、いい感じの話だ。やっぱり賢いほうが、新しい環境に適応できて、繁栄していくのだろう。とすれば、私たちヒトは、鳥よりもっと賢いのだから、繁栄して当然だ。
じつに、いい気分だけど、本当にそうなのだろうか。
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March 06, 2020 at 04:02AM
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進化は進歩ではない。その理由を「都市に暮らす鳥」が教えてくれる(更科 功) - 現代ビジネス
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