関学大のアメリカンフットボール部で28年間監督を務めた鳥内秀晃さん(61)が、このほど退任した。最後の会見で「正直ホッとした」と語ったという。
アメフトは「理」のスポーツである。攻撃の11人がプレーを完全に理解していなければならない。それもひとつひとつのプレーで11人の役割が詳細に決まっている。1人でも変なことをすると完全に崩れてしまう。このような団体競技は他にあまりない。「理」というよりも「究極の理」のスポーツである。
ただ鳥内さんは「情」の人だった。「主役は学生」を信念に、どちらかというと精神論の方が多かったと思う。家業は代々の製麺業。配達を終えて夕方、グラウンドに向かう。「急に寒くなる日は忙しいんや」と話していた。親の代からの職人さんたちとともに日々働く。職業監督でない、そんな部分も「情」の背景にあったのではないだろうか。
ユーモアを忘れない人で記者にも人気があった。20年ほど前、甲子園ボウルの前日取材はアルプススタンドでメディアが監督を囲む形で行われていた。アメフトは競技の特性上、事前に手の内を見せることはないので、監督が作戦に言及することはない。それでも「オレは作戦も何も知らんし、グラウンドでも何もせーへん」と、しらじらしいことを言うので「試合中はずっとヘッドホンをつけているじゃないですか」との質問が飛んだ。すると「アレは音楽聴いとるんや。演歌や」。一同大爆笑である。
その後も話は脱線し続け最後は「新聞に載る京大や立命の監督談話は標準語やのに、関学だけ大阪弁っておかしいやろ。そういうのをあらためてもらわんと、もうしゃべらへん」。これまた爆笑で取材を終えたのだが、いざ原稿を書こうとすると、何も書くことがなくて困ったことを覚えている。もちろん原稿に出てくるコメントは、すべて大阪弁にした。
ライスボウルの勝利は1回にとどまったが、日本一といわれる関学大のコーチングスタッフが練り上げた作戦がズハズバ決まって社会人王者をあと1歩まで追い詰めたことも何度かあった。完敗もあったが、ライスボウルに出場した時は勝っても負けても試合後、シーズンラストでそっと涙をぬぐうのが常だった。私は現場を離れて久しいし、テレビでは勝った方しか映さないため、映像では分からないが現場から「泣いていたように見えました」との報告を聞くのが私は好きだった。シーズン後に飲みにいくと否定が多かったけれど。
しかし今年に限っては最後ということで敗者の鳥内さんにもテレビインタビューが行われた。インタビューするのはNHKのアナウンサーではなく元TBSアナウンサーの有馬隼人さん。NHKの粋なはからいだ。関学大のQBとしてチームを甲子園ボウル制覇に導いた教え子である。泣いたかどうかは分からなかったが、最後のインタビューが教え子だったというのは、鳥内さんにとって最高の花道、そして万感迫るものがあったのではないか。私は勝手にそう思っている。テレビを見ていた私の方がグッときてしまったのだから。【高木茂久】
◆高木茂久(たかぎ・しげひさ)1986年入社。芸能、社会、サッカーなどを担当。趣味の鉄道にはまりすぎて現在ニッカンスポーツコムで「ニッカン鉄道倶楽部」を連載中。
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January 09, 2020 at 03:14PM
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