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Sunday, March 1, 2020

廃れる鳥葬 伝統と変化の狭間で揺らぐ社会 ディアスポラ@南アジア(パールシー編)(毎日新聞) - Yahoo!ニュース

 インドには、1000年以上前、イスラム化が進んだペルシャ(現イラン)から逃れてきたゾロアスター教(拝火教)信者の子孫が住む。「パールシー」と呼ばれ、ムンバイやグジャラート州といった西部を中心に今も約5万5000人が信仰を守る。英ロックバンド・クイーンのフレディー・マーキュリー は英国に移住したパールシーだ。【ニューデリー特派員・松井聡】

 一方、伝統的な葬儀である「鳥葬」を行う人は近年少なくなった。人口も減少の一途をたどっており、コミュニティーの将来的な存続も危ぶまれている。

 多様性に富む南アジアには、多くのディアスポラ(異国の地に移住したコミュニティー)がある。インドを中心に彼らを取り巻く現状や課題を紹介する。

 ◇遺体をついばむハゲワシが減って…

 「父は、絶対に鳥葬にしないでほしいって。ハゲワシが少なくなって、遺体が何日もなくならないから。何日も暑い中で寝かされるのは、いくら意識がないといっても私だって嫌です」

 ムンバイに住む主婦のファリダ・アンケスワリアさん(45)は、明るいパールシーらしく、ユーモアを交えて語る。

 鳥葬では、「沈黙の塔」と呼ばれる円形の構造物の中に置かれた遺体を猛禽(もうきん)類がついばむことで骨になる。パールシーの間では「遺体は汚れたもので、神聖な火は遺体を燃やすのに使えず、遺体を土に埋めれば大地が汚れる」(アンケスワリアさん)と考えられており、鳥葬が合理的な方法だと信じられてきた。

 だが近年、とりわけ都市部では猛禽類が激減した。以前は1日もあれば骨になっていた遺体が2週間たってもなくならず、腐敗が進むことも少なくないという。沈黙の塔に大きな反射パネルを設置し太陽光を当てることで遺体を急速に乾燥させ、処理を早めようとする対策も行われているが、大きな成果は上がっていない。さらに鳥が運んだ遺体の一部が住宅街に落下し、苦情が出ることもある。

 パールシー向けの情報サイトを運営するヤズディ・タントラさん(65)は「鳥葬は最も自然や環境を汚さない方法だが、現代に合っていない点も多い。3割ほどの人は土葬や、火を使わない電気による火葬を選んでいる。鳥葬を選択しない人々は今後も増えるだろう」と見る。

 ◇財閥「タタ」創業者などビジネスでの活躍目立ち

 パールシーは、信仰は維持しつつも、インドの文化を取り入れながら生きてきた。彼らの伝承によれば、移住を許可したインド西部の王と、現地社会に溶け込むことを約束したからだという。インド西部の現地語であるグジャラート語を母語とし、料理や衣装もインド風だ。中でも興味深いのが彼らの姓だ。ペルシャ由来ではなく、インドで就いた職業や移住先の地名を姓にしているケースが多い。「ソーダボトルオープナーワラ」(ソーダボトルの栓抜き屋)、「エンジニア」、「ドクター」などのユニークなものもあるという。

 また、パールシーを語るときに欠かせないのが、英国植民地時代以降のビジネスでの活躍だ。造船や金融などの分野で成功し、アヘンなど中国との貿易にも関わり莫大(ばくだい)な富を築いた。この中から現在まで続く複数の有力なパールシーの財閥も生まれた。

 最も知られているのは、自動車や製鉄で有名な「タタ・グループ」だ。従業員数は70万人以上で、100カ国以上で事業を展開している。

 タタをはじめビジネスで成功したパールシーは、この富を教育機関の設立などの慈善事業につぎ込んだ。タントラさんによると、背景には、「善思・善語・善行」の教えがある。教育水準は高くなり、近年はビジネスだけでなく、医師や弁護士、会計士などの専門職に就く人も多い。

 またパールシーでは女性の方が男性よりも高学歴とも言われる。19世紀にタタの支援で女子向けの学校が整備されるなど、早くから女子教育が盛んだった。会社幹部や専門職として活躍する女性も少なくない。

 ◇コミュニティー人口は70年で半減

 パールシーにとっての最大の問題は人口減少だ。国勢調査によると、1941年には11万4000人だったが、2011年には5万7000人にまで減った。背景には、独身者の増加や晩婚化による少子化、欧米への移住者が増えたことなどの社会的な要因がある。

 加えて、パールシーが長年守ってきた慣習も一因だ。父親が信者でなければ入信できず、信者の女性が異教徒と結婚した場合、信仰を捨てる必要がある。その子どもも信者としては認められない。

 今は3人に1人のパールシーの女性が異教徒と結婚するとも言われている。人口が少ないコミュニティー内で結婚相手の男性を見つけることの難しさや、職場で異教徒との出会いが多いことなどが背景にある。

 パールシーの文化団体の女性幹部は「独身者はコミュニティーの3割にも上る。まずは独身者を減らしたうえで、異教徒と結婚した女性の子どもも信者として認めるべきだ。このままではコミュニティーは確実に消滅する」と語る。

 一方、聖職者の家系出身で保守派のフィロジ・チノイさん(75)はこうした「改革」を求める意見に反対する。「本来は両親ともに信者でなければ、入信を認めるべきではないが、父だけ信者の場合は仕方なく認めている。純血を守ることは極めて大切だ。伝統を守ることでコミュニティーが消滅に近づいているとしても、それは我々の力の及ぶ範囲ではない」

 こうした状況の中、13年からインド政府はパールシーの人口減少に歯止めを掛けるため、子作りを支援する啓発活動などを柱とするプロジェクトをスタートさせた。信者に限った若者同士の交流会を開いて結婚を促したり、相手探しができるウェブサイトを開設したりするなどの動きも出てきている。

 また、19世紀以降にイランから移住してきたゾロアスター教徒の「イラニアン」や「パールシー・イラニアン」と呼ばれる人々との結婚も行われている。イラニアンは、現在もイランに残る親戚との行き来があり、イランとの関係が切れているパールシーとは異なる。現在は別々のコミュニティーを形成しているが、イラニアンの一人のルハン・ギズコラさん(62)は「パールシーは私たちに比べてインド化されているが、同じ宗教なので結婚に問題はない。宗教を守っていくためもあり、同化が進んでいくだろう」と話す。今後もコミュニティー存続に向けた模索が続きそうだ。

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