そのBLUE LYNXが送る劇場版アニメ第1作が、ヨネダコウのコミックスを原作とした『囀る鳥は羽ばたかない The clouds gather』だ。
比較的短期間の連載で完結することの多いBLコミックスのなかで、2020年2月時点で6巻まで刊行され、累計発行部数は150万部を超える人気作。
2月15日の公開に向けて期待の声が聞かれ、ファンの注目を集めていた。
『囀る』にはこれまでにもメディア化のオファーがあったというが、今回、劇場版アニメ化プロジェクトが動くにあたりどのような動きがあったのか、また制作陣として多くのファンに愛されるこの作品の魅力をどのように描き出したのか。
今回は原作者・ヨネダコウと監督・牧田佳織の対談をセッティングし、大きな重圧もあったであろう『囀る』アニメ化プロジェクトへの思いと劇場公開を迎えた心境を聞いた。
[取材・文=藤堂真衣]
■「自分の絵柄はアニメ向きでないのでは?」と心配だった
――劇場版制作にあたり、お二人が最初にお会いになったのは、いつ頃でしたか?
ヨネダ:2018年の春ごろにお会いしたのが最初でしたね。フジテレビさんからお話をいただいて。
牧田:そうですね。制作会社のGRIZZLYも立ち上げ後すぐで、劇場版の制作をしたいと考えていて……。タイミングとしては最高でした(笑)。
ヨネダ:アニメ化については担当編集さんからお聞きして「できるなら、ぜひ」とお返事をしてはいたんですけど、実現するかどうかは半信半疑だったんです。
作品がヤクザものだということもあるんですけど、私のマンガの絵柄はあまりアニメ映えするものじゃないのではと思っていて。
顔のパーツも大きくはないし、頭身も高くて動きをつけにくいのでは……と心配していました。
そういう点で、絵柄については「全然違うものにするか、可能な限り原作に寄せるかのどちらかにしてほしい」とお伝えしました。
でもそこで「寄せます!」と答えていただけたので、安心してお任せしました。
■自分の気持ちを語らないからこそ、矢代という人物が深みを増していく
――牧田監督は、原作の魅力をどのように映像に落とし込まれたのでしょうか?
牧田:原作を読ませていただいたときに、独特の温度感というか、雰囲気のあるマンガだなと感じました。
それから、1章では特に雨などの自然現象が印象的で、そうした原作のニュアンスを、アニメの強みである色彩表現や、光と影の表現でていねいに拾っていこうと考えました。
――窓を伝う雨粒や、薄暗い照明の灯る矢代の部屋などは特に印象的でした。ヨネダ先生は、アニメ化にあたり「ここだけはていねいに描いてほしい」と要望を伝えた部分はありますか?
ヨネダ:思い返すと、矢代の人物像については「ヘンな人に見せすぎないでほしい」とお伝えしたかもしれないです。
ストーリーの冒頭では影山と久我の情事を盗撮したりと、なんだかエキセントリックな印象を与えてしまう矢代ですが、映画全体を通して彼の多面的なキャラクター性を伝えたい、と。
共感できる面のある人にしてほしいと伝えました。
牧田:矢代については「どうしてそういう人物になったのか」とバックボーンが見えてくるようにしたいとおっしゃっていましたよね。
映画はどうしても尺が限られてしまうので、エピソードの全てを描くことはできなかったのですが、高校時代の矢代が影山のコンタクトケースを持ち帰ってしまうシーンなんかは、矢代の人となりを知るのに象徴的なエピソードになったと思います。
ヨネダ:『囀る』は読者の方に「読み取る力」みたいなものを求めてしまう作品で……。わかりやすい作品が好きな人には「わからないよ!」と思われてしまうかもしれませんが、キャラクターの心情を推測したり、作品について探求したりするのが好きな人にはそこが受け入れていただけているのかなと思っていて。
牧田:まさに、そこが『囀る』の魅力だと思います。矢代の内面って伝わりづらい部分もあると思うのですが、私は解釈を読者側にゆだねてくれる作品が好きで。
作者の方とは違う解釈かもしれないけど、あれこれ深読みしていくのが楽しいんですよね。
ヨネダ:がっつり「こうです!」と提示するのではなく、“想像の余地”を残しています。
マンガを描いているときにも「モノローグで全てを語らせない」ように意識しているんです。ちょっと外したところを語らせて、大事なところは語らせないように……とか。
抽象的な表現にすることもあります。矢代は特に自分の感情を客観視する部分が大きいので、感情の部分から一歩距離を置いているイメージですね。
牧田:そこから見えてくるのが、矢代が「相手に見せたい自分像」だったりするんですよね。本音と建前、みたいに。
ヨネダ:矢代は接する相手によっても違って見えるように描いているんですよ。いろんな面がありすぎて、きっと本人も自分がどんな人間かわかってないんじゃないかな?
■原作の絵柄の魅力を再現するため、アニメーター自らポーズモデルに
――作中に登場する「煙草の煙」がとてもリアルで印象的でした。ヨネダ先生も絶賛されていましたね。
ヨネダ:すごいですよね。本当にリアルで驚きました。矢代が組員の集まる場に連れて行かれるシーンなんかも、あの煙の「モワッ」と立ち込める感じと、その場の匂いを想起させるリアルさで……。煙草が嫌いな人にはつらいかもしれないですね(笑)。
牧田:撮影監督が実際に煙草を吸って、煙の動きを撮影しながら制作してくれたんですよ。他にも実際にアニメーターがポーズをとりながら制作したシーンがいろいろあって、濡れ場のシーンも実は男性アニメーターが実際にポーズをとっていました(笑)。
ヨネダ:本当に!?
牧田:ヨネダ先生の絵を再現するにあたり、どうしてもいろんな角度から描くためにはポーズモデルが必要だったんです。
――キャラクターデザインに関してはいかがでしたか? マンガの絵からアニメに描き起こすにあたり、苦労された点はありますか?
牧田:実際、制作としては一度絵を作ってしまえば動きをつけるのは難しくないので、ヨネダ先生の絵にしっかりと寄せてキャラクターを作っていきました。先生もとても丁寧に手直しをしてくださって、おかげでクオリティの高い作画ができました。
ヨネダ:細かくて申し訳なかったのですが、百目鬼なんかは特に「肉感的に」とお願いしましたよね。
百目鬼は胸筋があるので、ワイシャツを着ると胸の部分に横ジワが入るんですよ。
百目鬼
矢代のようにスリムな体格の人物とは違う描写が必要なので「胸筋が大事なんです」と。矢代と比べて、百目鬼のほうが大変でしたよね。
牧田:そうかもしれません。矢代は髪型や表情にも動きがあって、特徴もつかみやすいのでアニメの絵に落とし込みやすいのですが、百目鬼はシンプルでとっかかりになる部分が少ない。
どうしたら百目鬼らしくなるのかは悩みましたね。
表情もあまり出さないようにしなければならないので、特徴をつかむのが難しいキャラクターでした。
ヨネダ:ストーリーが進むにつれて、百目鬼の表情も動き始めますね。いつも「溜めて溜めて、爆発する」というストーリー展開なので、そこまでが大変(笑)。
――作画表現といえば、本作はR18指定であり、濡れ場のシーンも表現されていますね。年齢制限は当初から決定していたのでしょうか?
牧田:確定ではないけど、「R18指定になるという可能性はある」とは聞いていました。
より多くの人に届けられるという意味では、「R15に留められたらいいね」という話もしていましたが、だからといってストーリー展開において重要なシーンでもある濡れ場の描写をマイルドにはしたくなかった。
「逃げずに描き切ろう」と考えていました。
ヨネダ:そうそう、アニメになったものを見て「意外と濡れ場があるな」って思いました。マンガだと1コマで済むようなシーンも、いろいろなアングルから描かれていて。
牧田:アニメーションとしては、1カットで描くとどうしてもカロリーがかかるわりに単調になってしまうので、あえて3~4つにカットを割り、全体の動きから顔のアップ、それから少し寄り……というように変化をつけているんです。
■キャラクターを丁寧に描こうとすると、必然的にストーリーが厚みを増していく
――『囀る』は現在6巻まで発行され、BLコミックスとしては長期連載になりますが、元々長期連載になることは決定していたのですか?
ヨネダ:当初はもっと短く完結する予定でした。ラストはほぼ決まっていて、それは今も変わっていませんが、そこにいたるまでのエピソードが増えたぶん、各キャラクターを掘り起こす作業をしなければならなくて。
特定のキャラクターを深く掘り下げると、他のキャラクターも掘り下げないとバランスがとりにくくなるんです。
例えば矢代というキャラクターを掘り下げていくなら、対になる存在である百目鬼もしっかりと掘り下げて、キャラクターとしての造形を作っていかなければなりませんから。
矢代と百目鬼の二人以外にも、「序盤から登場している七原は人物像をもっと見せたい」というように、どんどん描きたいキャラクターが増えていくんです。
時々、スポーツマンガを描いているような気分になります(笑)。
牧田:ライバルチームの回想シーン、みたいな。
ヨネダ:そうそう(笑)。敵キャラがどんなバックボーンのあるキャラクターなのかを見せて「だからこそ強敵なんだ!」と表現するためのエピソードづくりに似ています。
――アニメになった『囀る』を見て、印象的だったのはどのシーンですか?
ヨネダ:ケガをしている七原が矢代に蹴られ続けるシーンですね。原作だとそうでもないんだけど、アニメだと本当に何回も蹴られてて……。痛そう(笑)。
牧田:会話の長さの関係もあって、どうしても蹴りまくる必要があったんですよね(笑)。
ヨネダ:それから、アフレコにも立ち会わせていただいたのですが、やはりラストの高校時代の矢代が涙するシーンはグっときました。新垣(樽助)さんの声に引っ張っていただき、素晴らしい出来上がりになりました。
――アフレコ現場で、キャストの方にはどのようなディレクションをされましたか?
牧田:ドラマCDで長く演じてこられていることもあり、アニメ独自のニュアンス的な部分で少し調整をお願いしたくらいですね。
特に矢代と百目鬼を演じている新垣さん、羽多野(渉)さんは私よりもキャラクターとのお付き合いが長いので、ほとんど変えてもらうところはありませんでした。
――ドラマCDから演じ方に変化はありましたか?
ヨネダ:やはり映像がつくと演じ方が変わるんだな、と感じました。
ドラマCDでは絵がないぶん、状況説明のための台詞を入れることもありますが、アニメだと絵で説明ができるぶん、よりシンプルな台詞になります。
それから、アニメだと煙草の煙を吐き出すタイミングに苦労されているようでした。
特に矢代はよく煙草を吸うので、ドラマCDでは声優さん自身のタイミングでされていたけど、アニメの絵に合わせて演じるという点で苦労されたところもあると思います。
牧田:喋りながら煙を吐き出す、といった微妙な演技は大変だったろうなと反省しています(笑)。
■「他者が語る矢代」に、矢代の人間性が見えてくる
――本作について「ココに注目してほしい!」というポイントはありますか?
ヨネダ:難しい! 全部のシーンを見てほしいです(笑)。
牧田:どのシーンも全力で作ったので、確かに全部見てほしい(笑)。
でも、描写の面でいうと、矢代がいないところで他の人が矢代について語っているシーンが私は好きで。
矢代は接する相手によって対応が違い、つまり「見せている自分」が違う。まさに人間って語られることで形づくられていくものなんだなと。
ヨネダ:そうですね。あと、1章のあたりを描いているときは矢代が他のキャラクターにけなされる表現が多かったですよね。
「変態」とか「公衆便所」とか……。
当時は「主人公をこんなにけなすのってタブーなのかも?」と不安に思いながら描いていたんです。
最近はそれが楽しくなってきちゃったんですけど(笑)。
でも、最終的にコミックスとしてまとまるときに高校時代の話が入ったことで、そうしてけなされてきた矢代の人間性が全てすくい上げられたような感覚があって。
牧田:既にコミックスで描かれている部分があるからこそ、私たちがアニメ化する際に拾うことができた矢代の魅力もあると思います。
1章の時点ではまだ見えていないけれど、ストーリーが展開するにつれてわかってくる部分というか。
そこをヨネダ先生が描いてくださっていて、私たちが知っていたからこそ、矢代をより人間らしく、立体的に描けたのではと思います。
――2作目となる『囀る鳥は羽ばたかない The storm breaks』の製作も発表されましたね。1作目は『The clouds gather』、2作目は『The storm breaks』と、天気にまつわるサブタイトルで統一されていますが、これは監督のアイデアですか?
牧田:フジテレビさんからいくつかアイディアをいただき、私たちでアレンジをさせていただきました。
「鳥の名前」などのアイディアもありましたが、原作を見たときに“雨”の印象がとても強かったので、そちらを取り入れました。
1章は雲が集まってきて、雨が降り出しそうなイメージ。2章は雨が降り、嵐が起こるというイメージですね。最後には晴れるといいな、という願いも込めて。
牧田:2章は物語も大きく動くパートになるので、制作としても引き続き頑張っていかねばと思っています。
ヨネダ:2作目がどこまで収録されるかはまだこれから……という段階ですが、抗争パートと矢代・百目鬼の心情や関係が変化し始める重要な部分でもあるので、こちらも楽しみにしていただきたいです。
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February 29, 2020 at 11:00AM
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「囀る鳥は羽ばたかない」ヨネダコウ×牧田佳織監督が語り尽くす、アニメ版のこだわり&原作マンガの魅力【インタビュー】 - アニメ!アニメ!Anime Anime
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